テクノロジー

東京オリンピックで活躍、歩いたまま立ち止まらずに顔認証、東京五輪の安全を守るNEC製システムの裏側

 東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと半年となった。東京オリンピック・パラリンピックは「史上最もイノベーティブで、世界にポジティブな改革をもたらす大会」のビジョンを掲げ、様々な先進技術の適用を目指している。多くの企業が大会の場で最新の技術を提供しようと現在も技術開発を続けている最中だ。そこで本特集は実際に東京オリンピック・パラリンピックが採用する最新の製品やサービスとその仕組みを解説していく。

 今回取り上げるのはNECの顔認証システムだ。アスリートや運営スタッフ、ボランティア、報道関係者など約30万人の大会関係者が、会場に入場する際の本人確認に利用する。これまで関係者が入場する際の本人確認は目視で行われており、入場システムに顔認証が採用されるのは史上初だ。

https://youtu.be/WFuQvVX3R6Q

 顔認証による入場システムの特徴は「ゲートで止まらずに歩きながら通過できることだ」とNECの山際昌宏東京オリンピック・パラリンピック推進本部パブリックセーフティ&ネットワーク事業推進グループ部長は説明する。利用者は歩きながらIDカードをゲートに設置してある装置にタッチする。この操作でIDカードによる認証に加えて顔による認証も完了する。問題がなければIDカードのタッチだけの操作でゲートを通過できる。

 この仕組みであれば入場者が顔認証のために立ち止まる必要はない。写真撮影のために1人ひとり立ち止まる必要があると行列ができてしまう。これでは時間のないアスリートなどへの負担が大きい。そこで歩きながら通過できる仕組みが必須だった。

関係者向けの入場ゲートに設置される顔認証システム

関係者向けの入場ゲートに設置される顔認証システム(画像提供:NEC)[画像のクリックで拡大表示]

 NECの顔認証システムは目と目の距離や鼻の位置といった顔の特徴を数値データ化する技術が中核となる。事前に登録された顔写真を数値化してIDとひも付けて蓄積し、そのデータとゲートを通過した際に撮影した顔の特徴を示すデータが同一かどうかで本人を認証する仕組みだ。山際部長は「骨格さえ変わらなければ、化粧や変装をしても本人を区別できる」と説明する。また「数値データを扱うので一般的なハードウエアを用意すれば動作する」(山際部長)という。データをどのような形式で保持しているかなどは、セキュリティーの観点から公表していない。

 NECは東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナーとして「パブリックセーフティ先進製品(生体認証、行動検知・解析、ドローン)」と「ネットワーク製品(SDN、有線ネットワーク、無線ネットワーク)」の2つのカテゴリーで契約している。顔認証システムはパブリックセーフティ先進製品の1つという位置づけだ。

正面の写真が撮れなくても認証できる

 30万人の関係者を停滞なく正確な顔認証で入場可能にする。この目標を実現するためNECは「特に運用を踏まえたゲートの開発を繰り返した」と山際部長は強調する。

 NECは出入国管理など世界50の空港で生体認証を使ったシステムを構築するなど、生体認証を使ったシステムに強みを持つ。しかしオリンピック・パラリンピック向けの生体認証を使ったシステムの構築経験はほとんどなかった。2016年に開催されたリオデジャネイロのオリンピック・パラリンピック関連の一部の施設で、報道関係者向けに顔認証を利用した入場管理システムを導入した実績があるのみだった。

 今回の顔認証システムは30万人という多くの人が利用する。しかも利用する人も多様だ。こうした中、高い精度で顔認証を実現するためには正面の顔を撮影する必要がある。しかし実際にはゲートに向かって歩いてくる関係者が正面を向き続けていることは少ない。下を向いてかばんに入っているIDカードを探していたり、横を向いて知り合いと話していたりなど、様々な方向を向いている。

 加えて「身長だけを考慮してもオリンピックに出場する2メートル以上の身長のアスリートから、車椅子のパラリンピックのアスリートまで様々な条件の参加者がいる。IDカードをタッチする位置も含めて運用が難しい」と山際部長は話す。

参照:日経XTECHより