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電気自動車のF1「フォーミュラE」環境に優しい未来のスポーツの魅力!

ガソリンなどの化石燃料を使用しない電気自動車のフォーミュラカーによるレース「フォーミュラE」に注目が集まっています。モータースポーツとしての魅力だけでなく、電気自動車の技術開発の場所としてもスポットがあたっているようです。

電気自動車のF1「フォーミュラE」とは

フォーミュラEの歴史は2012年、国際自動車連盟(FIA)が設立を発表したところから始まりました。

1904年創立のFIAは、世界の自動車クラブやモータースポーツ統括団体などが加盟する国際組織で、日本からは日本自動車連盟(JAF)が加盟しています。人々の移動の自由を促進し、自動車ユーザーの権益を擁護することと、モータースポーツを国際的に統括することが業務となっています。

現在FIAでは、世界選手権から地域選手権まで数多くのモータースポーツを主催しています。このうち世界選手権ではF1のほか世界ラリー選手権(WRC)、ル・マン24時間レースを含む世界耐久選手権(WEC)などがあります。

フォーミュラEは、そのFIA自身が新たに立ち上げたカテゴリです。これだけでも力の入ったモータースポーツであることが想像できるでしょう。

フォーミュラE登場の背景には、やはり地球温暖化があります。国際エネルギー機関(IEA)による2014年のレポートでは、2012年の世界のCO₂排出量は約317億tに達し、そのなかで輸送機器から排出される割合は23%と算出しています。

温暖化の影響は、FIAが本拠を置く欧州でも深刻です。スイスではアルプスの氷河が減少し、イタリアのヴェネツィアでは高潮が頻発しています。欧州で環境問題について取り組む人が多い傾向があるのは、実際に身近で影響が出ていることが大きいと考えられます。

電気自動車のF1「フォーミュラE」とは

温暖化防止のために、自動車のCO₂排出量低減は欠かせません。そこで近年、各自動車メーカーが開発を進めているのが電気自動車です。バッテリーに蓄えた電気で走るので排気ガスは出さず、原動機から発する熱も控えめです。充電に使う電気を太陽光や水力、風力などで賄えば、発電時のCO₂発生も抑えられます。

電気自動車の量産化で先陣を切ったのは日本の三菱自動車工業や日産自動車で、続いてアメリカからテスラが登場しました。この時点では欧州の自動車メーカーは電気自動車に積極的ではありませんでしたが、そんな状況を見てFIAはフォーミュラEを立ち上げたのかもしれません。

モータースポーツは技術開発の場でもあります。例えばF1は限られた燃料で限られた距離を可能な限り速く走るというルールですので、動力性能と経済性能を高度に両立したエンジンが求められます。そこで培った技術は市販車にフィードバックできます。

FIAは自動車社会全体を見据えた組織ですから、フォーミュラE発足には電気自動車普及という目的もあったと思われます。

「フォーミュラE」の見どころ

フォーミュラEは毎年秋から翌年夏までのスケジュールで開催されます。2014年秋に「シーズン1」と呼ばれた最初のシーズンが始まっています。

F1との違いはいくつもありますが、まずは車体やバッテリーが全車共通となっていることを挙げたいと思います。これには、開発コストを抑え、参戦に対するハードルを低くしようという狙いがあります。しかもバッテリーについてはリサイクルも行われており、環境にも配慮しています。

当初はモーターやインバータ、制御ソフトウェアなども全車共通でしたが、現在は独自開発が認められています。

モーターの最高出力は250kWです。この出力をフルに引き出せるのはフリー走行と予選のみで、レース中は200kWに制限されます。ただし一定の条件をクリアすれば200kWオーバーにできる裏技が用意されています。

その一つはアタックモードで、コースごとに設定される「アクティベーションゾーン」を通過すると、ステアリング(ハンドル)のボタンを押すことで一定時間アタックモードに切り替わり、225kWに出力が上がります。

 

もう一つはファンブーストで、こちらはSNSなどによる人気投票で上位5名のドライバーに権利が与えられ、レースの後半に5秒間だけ250kWのフルパワーを引き出すことが可能になっています。

しかもドライバーがこれらのモードを使って走っているときには、運転席に装備された頭部保護装置にあるLEDが光るため、ひと目で分かります。

高性能エンジンが発する豪快なサウンドがないことも、F1との大きな違いです。この点については最初にフォーミュラEをテレビなどで見たとき、物足りないと思った人がいるかもしれません。

しかしレース会場では、それに代わる音の演出があります。観客席にスピーカーが据え付けられ、DJならぬEJ(Formula E’s Resident DJ)が選曲した音楽が流れているのです。このミックスはYouTubeなどでも聴くことができます。

さらに、排気ガスを出さず音が静かという面をアピールすべく、フォーミュラEのレースは多くが市街地で開催されています。2014年9月の最初のレースは中国の北京で行われ、その後もロンドンやパリなどの大都市で開催されています。

2014年9月の最初のレースは中国の北京で行われ、その後もロンドンやパリなどの大都市で開催されています

フォーミュラEは単なる電気自動車のレースではなく、電気自動車だからこそ可能な工夫を凝らし、多くの人がエンターテインメントとして気軽に楽しめる内容になっています。

フォーミュラEには当初から10チーム20台が参戦しましたが、このうち自動車メーカーで挑戦していたのは、初年度から3年連続でチームチャンピオンになったフランスのルノーほか、ドイツのアウディ、モナコのヴェンチュリ、インドのマヒンドラでした。

シーズン6(2019年-2020年)ではここにドイツのBMW、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、フランスのDS、イギリスのジャガー、中国のNIOが加わっており、日本からもルノーのチームを引き継ぐ形で日産が挑戦しています。注目度が高まっていることは、参戦するメーカーの数を見ても分かります。

こうした発展を受けてFIAは、シーズン7(2020年-2021年)からフォーミュラEをF1やWRCと同じ、モータースポーツとして最高格式の世界選手権に格上げすることとしました。ただし、新型コロナウイルス感染症の拡大により開幕は延期されており、今季のレースは2021年1月スタートになります。

「フォーミュラE」での切磋琢磨で発展する技術

前述の通り、フォーミュラEでは参戦のハードルを低くしてリサイクルを容易にすべく、車体やバッテリーを共通としていますが、モーターやインバータなどからなるパワートレインは自由な開発が許されています。それは、市販の電気自動車の技術開発に大きく関係するためと考えられます。

市販の多くの電気自動車も、車体についてはエンジン車と大きく変わりません。バッテリーは性能が大幅に向上していますが、それは電池メーカーの努力によるものです。バッテリーに蓄えた電力をどれだけ走りに結びつけられるかが自動車メーカーの役目です。そのため、FIAではこの部分については自由度を持たせているのではないでしょうか。

、電気自動車では、減速時にモーターを発電機として使うことが可能です

また、電気自動車では、減速時にモーターを発電機として使うことが可能です。発電の際には回転エネルギーが損失するので、ブレーキをかけたように回転が落ちていきます。これは回生ブレーキと呼ばれています。

フォーミュラEでも、もちろん回生ブレーキを採用しており、市販の電気自動車と同じように、ブレーキペダルを踏むと油圧ブレーキと回生ブレーキの配分を自動的に制御し、スピードを落としていきます。この制御システムの独自開発も許されています。


他車との競り合いに勝ち、トップでゴールするには、限られた電力を可能な限り速さに結びつける技術が大事になります。フォーミュラEで速さを極めるための技術は、市販車では、限られた電力で遠くまで走り続ける技術につながります。エンターテインメントとしての面白さも魅力ですが、それ以上に、地球の未来を考えるモータースポーツとしても注目の存在でしょう。

ライタープロフィール

森口 将之

森口 将之
1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社編集部勤務を経て1993年にフリーランスのモータージャーナリストとして独立。現在はモビリティジャーナリストとしても活動。2011年にはリサーチやコンサルティングを担当する株式会社モビリシティを設立、代表に就任。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員。著作に「パリ流 環境社会への挑戦」「富山から拡がる交通革命」「これから始まる自動運転 社会はどうなる!?」「MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略」など。
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参照:未来想像WEBマガジンより